我が家の庭に一本のオニグルミの木があります。
今年、そのオニグルミの木が初めて実をつけているんです!
あなたとの出会いはもう十数年前になりますね・・・
ある年の秋、山の小さな沢沿いに立っていたオニグルミの木の枝にはよく熟したクルミの実がたわわに実っていました。
秋のさわやかな風に揺られあなたは旅立ちの時をむかえます。
母の枝をつかんでいた手を静かに離すと音もなくスーっと地面へと落ちて行きました。
初めて自分の体でこの世界を感じたときあなたはなにを想ったのでしょう。
「ドスンッ」ふかふかの落ち葉が優しく受けとめてくれました。
いろんな虫たちが集まってきて種を覆っていた実を食べてくれます。
やさしく包んでいてくれた衣を脱ぎ捨てて旅の準備が整いました。
そのころ空には真っ白な雪が舞い始めました。
一つまた一つとあなたの周りを雪の粒たちが覆ってゆきます。
まだそばに母の温かさを感じながら降り積もった雪の下でじっと春を待ちます。
春、いよいよ壮大な旅の始まりです。
あなたは雪解けとともに斜面を転がり沢へと出ました。
冷たい雪解け水の流れにのります。
始めてみる景色に心を躍らせてどんどん下流に流されていきます。
そして大きな川へ出ると水の流れはさらに勢いを増します。
小さな魚たちの横を流れ、時に濁流に巻き込まれ、いくつもの滝を越え、
いつしか川の流れは静かになりました。
かすかな潮の香りと、波の音、そうですついに日本海の海原までたどり着いたのです。
今まで見たこともない魚達や生き物達にたくさん出会います。
数日海の上を漂った後、北風に運ばれて浜辺に漂着しました。
あなたは根をおろす場所を探していたのですね。
もちろん塩水の中では芽を出すことができません。
ある日雨が海水を洗い流し大地に潤いを与えた日、
あなたは硬く閉じていた殻からちょっぴり根を出してあたりの様子を見ました。
ここを新しい住処に決めよう!
しっかりと根をはった後、さんさんと降り注ぐ太陽に向かって小さな葉をひろげました。
そんなある日の朝に僕たちは出会ったのです。
波うち際にぽつんと緑の葉を広げるクルミの木。
きっとこのままでは枯れてしまうと思ってあなたを庭に連れてきたのです。
あらから十数年、また新しい旅が始まるのですね。